“恋する絵描き”福井伸実インタビュー

『ゲスの極み乙女』のアートワークで一躍脚光を浴びたアーティスト福井伸実さん。

恋や性といったテーマを淡いタッチで描き出し、特に同世代女性層からの圧倒的支持を集める福井さんのその秘密に迫ります。

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男の人ってどこまでいっても解んない

―現在の作風から伸実さんはイラストレーターと認知されがちですが、元々美大で本格的な絵画を専攻していたんですよね?―

そうそう、ムサビ在学中は油絵や石膏の像やヌードモデルを描いたり一般的な美大生のイメージ通りのことをしてました。

―そこから現在のイラスト、イラストというと憚られるかもしれませんが、今の作風に至ったんですよね。―

当初はイラストと言われるのにも違和感があったんだけど、今思えば使いやすい言葉だと思うし、そもそも私がカテゴライズすることでもないんですよね。

だから今は見る人それぞれが自由に決めてくれればいいと思ってます。

―何故、少女の性や恋愛をテーマに創作を始めたんですか?―

「これで行く」と決めたわけじゃなく美大に入るずっと前から、女の子を描いていたんだけど、結局自分自身のことが一番感情移入しやすいのかも。

男性を描くのも苦手だし、やっぱり異性である男性のことは解らない。

私の家、女系家族で男性が身近じゃなかったんですよ。

だから選んだわけじゃなく、元々女の子しか描けないんです。

―恋している少女画は伸実さん自身でもあるんですね。

異性って分からないからこそ惹かれるし、悩ましいし、そんな等身大の乙女心をファンの女性層は共感するのかも知れませんね。―

ファンが自己投影してくれてこそ、それぞれのストーリーが完成する

 (文が添えられた作品を手に取りながら)こうやってメッセージを書いてあるものもあるんですが、その時私が思っていたことを伝えたいんじゃなくて、見る人が自分の心情を投影してストーリーを完結させてもらえればいいと思ってるんです。

―アーティストって読解が難しく解る人にだけ解ればいい作風とか、あるいは限定したこれ!といった自身の哲学を前面に出す作家等も少なくありませんが、その向きではないんですね。―

逆ですね。

―見る者に感情移入する余地を残してるからこそ、共感を生んでいるのかも知れませんね。

ご自身を投影しているということは、この先長い作家人生を続けていくとなると、モチーフの少女も歳を重ねたり老婆になっていったりするのでしょうか?―

老婆は書けないよー(笑)

でもどうなんでしょうね、女の子描いてる人も老婆は描いてないから、ずっと女の子描くんじゃないかな。

―江口寿史も美少女を描き続けるし、あだち充も青春を書き続けてますからね(笑)―

でも女性は子供が出来ると絵が変わるとも言うし、実際に私もタッチが変わって来てる。

大学生の時はもっと暗い絵ばかり描いてたし。

これからも変わるかも知れないですね。

―(作品を取りながら)大学時代の作品も見させてもらいましたが、やはり今はこういった余白を残した淡い作風が受けてますよね。―

こういうさらっと下書きのような技法をドローイングって言うんですけど、アイデア出しのままというか、力の抜けた方が皆は好きなのかな。

―ちゃんとしたキャンバスで描かれ、額に飾られるような完成された大作は逆に変化がないので、インテリア的というか、模様替えみたいな感覚で飽きちゃうのかも。

こういったドローイングの方がそっと手帳に挟みたくなるような愛着が湧く気がします。―

そうなんだ、勉強になります。

―いや、素人意見というか、しがない一ファンの目線で恐縮なんですが(笑)―

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CDジャケットのアートワークは偶然の出逢いから

―アーティストとして表現手法がブレないことが一昔前のアーティスト像でしたが、今はマルチにいろんな発表手法を自在に扱う作家が台頭してきています。

あるいは村上(隆)さんのようにそれ自体を敢えて狙って戦略的にやる人がいる。

でも伸実さんはそれらと同じことをしていても、何故か肩肘を張った感じがしません。

ご自身が前に出てみたり、出なかったり、依頼のアートワークからグッズ展開、ライブペインティング、イベント主催…、と全く絵画一本でないにも関わらず。

それは何故なのか?あるいは特に理由が無いならば、自身が思うにどうして今マルチに活躍出来ているのか考えを聞かせてもらえますか?―

確かにCDジャケットで大きなお仕事を頂いたんですけど、音楽方面に興味があったわけじゃないんですよ。

大学一年くらいの時に『さめざめ』のメンバーがmixiで同じコミュニティーに入っていて、当時の(伸実さんが描いた)プロフ画を見つけてくれて「作風が合っている」とオファーを頂いたんです。

『アルカラ』もライブハウスでイベンターから持ちかけられたイベントで展示をしていたら、「一緒に何かやろう」と。

基本的に誘われて始まることが多いですね。

―弛まぬ売り込みが実を結んだわけじゃないんですね、伸実さんに憧れるアーティストの卵へのリスナーに聞かせられない(笑)―

そうそう、こないだムサビで特別講義をやらせてもらった時も、そういう売り込み論とか話せなかったし、売り込んだ方がいいんでしょうけど、まあ緩いんですよね。

―若い女性の多くがバンドやバンドマンが好きだから、失礼ながら伸実さんもその一人で憧れのお仕事を勝ち取ったのだろうと予想していました、完全に勝手な先入観ですが。―

いや、まあ嬉しいは嬉しいし、有り難いことなんですけどね。

あっ、でもGLAYが子供の頃すごい好きで、コンサートに行くとアリーナの関係者席とかに嫁が座ってて、「いつか絶対自分もあそこに座ってやる!」と思ってたんですけど、『ゲス(の極み乙女。)』でそれが実現した時には嬉しかった。

ってこれは別の話ですよね(笑)

―いや、でもここまであまりに掴み所の無いふわっとした展開が続いたんで、正直俗っぽい面が垣間見えて安心しました(笑)

僕も今こうしてファッションwebマガジンの編集長をさせてもらっているけれど、旧GAP前(原宿)とかで溜まってるキッズだった頃憧れた東コレ(JFW)にいつの間にか入れるようになって、初めて一般招待席でなくフロントロウにも通されるようになった時は感慨深かったですもん。―

優越感ありますよね(笑)

―GLAYと言えば、僕の世代ドンピシャ全盛期でしたよ、グロリアスとか多分15の時初めて買ったCDじゃなかったかな、まだマキシじゃなく、縦長のシングルジャケットで。―

うわー、懐かしい!

―すみません、話が脱線しちゃいましたね、『ゲス(の極み乙女。)』とはどんなきっかけだったんですか?―

出逢いはキーボードのメンバーに共通の知り合いが美大の同級生で、あっ、そもそもその子が作ったトートバッグに書いてあったフレーズがバンド名の由来なんですよ。

(川谷)絵音さんが「その名前でいいじゃん」って。

それで乙女だからガーリーな絵を探していて、私を紹介してもらったんです。

―今日彼らが売れてから来たオファーじゃなかったんですね。―

でも最初観た時からこれは絶対売れると思っていました。

―失礼ながら僕は車のCMの「ロマンスがありあまる~♪」の曲しか知らずすみませんが。―

楽曲ももちろん、ルックスやキャラとかも立ってて何か違うって感じはありますよね。

―それは確かにありますね、一時話題になった時、画像検索してみましたが、衣装目線で見ても都度スタイリングで世界観が統一されてるなあと思ってました。

そう言えば伸実さん、ドラマーの人に顔立ちが似てますね。―

いえいえ、ファンに殺される…。

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私の描いた絵が旅立ち、誰かの生活の一部になれたら

―さて、今後の展開をお聞かせ願えますか?―

『さめざめ』とのユニットで歌詞も書く予定なのでそれを頑張るのと、あとは…本の表紙とかも描きたいですね。

―個展やイベント等は精力的にやられていますが、画集や作品集のような何か形に残すものはいかがですか?―

画集はあんまり好きじゃないんですよね、ポストカードとかも。

CDのアートワークとかそのままじゃないのはいいんだけど、絵をプリントして並べてるだけだとコピーバンドと言うか。

一枚の絵が一人の為に旅立って、その人の生活の一部になってくれるのがやっぱり好きなんです。

―えっ、今もこんなに売れても、いまだ一枚単位で原画を売ってくれるんですか?―

全然3,000円くらいで売ってますよ、それが高いか安いかは別にして。

だって私が心を込めて描いたものを、誰かが感情移入してくれて、家に欲しいと持って帰ってくれる。

それにお金まで払ってくれて、こんなに嬉しいことなくないですか?

これをこのまま続けていけるのか、いつも不安でしかないんですよね、基本自分に自信がないので。

だって正直、この程度なら誰でも描けるじゃないですか?

環境に恵まれ、周りに助けられてきただけで。

―いえ、でもそれは間違いなく需要があるからであって、それを普通はマーケットを狙って意識してひねり出しているわけじゃないですか、他のライバル達は。

アートより音楽シーンなんてそれがより顕著ですしね。―

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サブカル路線にカテゴライズされたくない

売れ線は嫌いだし、いわゆるサブカルにも属してない。

それだけは意識して選んでその道を行ってるつもりですけどね。

―確かに今なんて特にどっぷりサブカル路線にカテゴライズされやすい時代、素人から見たらサブカルやガールズアートの世界に見られやすいかもしれませんね。―

正直似てる絵なら幾らでもあるじゃないですか、ざっくり一括りにすると。

―だからこそ敢えて自分からそちらに寄せることはないってことですよね。―

だって、なんか痒くなるー。

MさんはミスiDとか好きですか?

―これまでの記事でも何度か取り上げた通り、僕は大好物ですね。―

最近皆同じ系統ですよね、あの記号的集合体が苦手、ヴィレヴァン界隈にあるような。

―玉城ティナ(初代グランプリ)にルックスで敵わないから、サブカルアイドルの飛び道具路線のオンパレードに食傷気味ですよね。―

そっちに寄れば商業的な成功はもっとするんでしょうけど…。

―一瞬で価値を失いますよね、もれなく量産型の仲間入りを果たし。

当初個性ある子を輩出するというコンセプトだったつもりが、猫も杓子も皆同じ個性派や量産型ロリ系清純派では逆に無個性ですもんね。―

水野しずさんは本物ですけど、実際に彼女も美大出身者なんですよ。

―あの蛭子能収的なヘタウマ画風の?

まあ、僕はグラドルとかアイドルには精神性や内面を求めてはいないのでいいんですけどね。

本物じゃなくても“黒髪ツインテ”とか適当にしてくれているだけで。

生フィギュア的存在価値とでも言いますか。―

ロリコンってことでいいですね?

―ロリコンなのかなあ、もうあの手のはある種、様式美じゃないですか?美少女アニメのステロタイプ然り。

で、僕の美的感覚の基準の一つが“装飾過多でない素材感を残したもの”なだけなんですよ、あんだけぶりっ子してて素材感もへったくれもありませんが…(笑)

いや、僕の話はどうでもいいので、話を戻していいですか?

今後の展望の続きをお願いします。―

ネガティブなインプットよりポジティブなアウトプットをしていきたい

何より続けていきたい、描いていて辛くなることもあるので、明るく描き続けたい。

自分の周りに少しずつ大切にしたいことが増えていくように、一人の人間として真っ当に描き続けたい。

―な、何かあったんですか?

いや、でも至極真っ当ですが。

新しいことに挑戦するとかでなく。―

取れ高的にまずいですかね?(笑)

―いえ、でも本当に恵まれていますよね。

無理してアイデアや戦略を捻り出すことなく、ご自身の描きたいままで業界から評価を得て、ファンから支持を得て。

それを堅実に続け重ねて行きたいと?―

無理をしても辛くなるだけだし、キャパも狭いから。

もっと売れてる人や、もっと上手い人を見て焦ったり落ち込んだりするのはしんどい。

そりゃ出来るならもっと売れたい、より大きな舞台で絵を描いたり、有名になって華やかな世界にも憧れる。

でもそんな風に生きるのは疲れちゃうし、上のレベルを見る度に「なんだ、じゃあ私でなくてもいいんじゃん」と思ってしまう。

良いと思った人のテイストを盗んでも、自分が良くなるわけじゃないし、量産型の一つに加わるだけ。

だったら周りに目や意識を奪われるよりも自分の世界観に没頭したほうが有意義ですもん。

実際それを求めてくれている人達もいるわけだし。

そういった人達に誠実にアウトプットする方が私にとっては大切なこと。

それをし続けるということが私にとっての今は夢です。

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福井伸実(ふくいのぶみ)

恋する絵描き。
 武蔵野美術大学卒。
在学中から、ゲスの極み乙女。、アルカラ、さめざめなど多くのアーティストのアートワークを手掛け、現在もフリーで活動を続けている。
自身でも精力的にグッズ展開、イベント開催、絵画制作や展示を行うなど、多岐に渡った活動を続けている。
アートワークを手掛けたアーティストは、ゲスの極み乙女。、さめざめ、アルカラ、MAAKIIIなど。

公式webサイト:http://fukuinobumi.jp/
公式ツイッター:http://twitter.com/xnbm

 

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