『傾く者たち』 山﨑徹 ✖ COLORS* YUI 対談ロングインタビュー

COLORS*『傾く者たち』シリーズ第1弾 附け打ち 山﨑徹さんとの対談インビューをさせて頂きました。約3時間半に渡るロングインタビューは、他では中々知ることが出来ない貴重なお話ばかりとなっています。COLORS*読者の皆さん、歌舞伎初心者の方も、歌舞伎が好きな方も、心行くまでお楽しみください。


 

yui 宜しくお願いします。
まず初めに、歌舞伎初心者の方のためのWEBマガジンなので、読者からの質問も踏まえ、附け打ちという職業についてお聞かせください。

山﨑 おはようございます!
附け打ちという職業は、歌舞伎のお芝居の中で、役者さんの演技を強調するのが主な役割なんです。具体的にいうと、舞台に出て、音を出すことで注目させるんです。見得って知っていますか?

yui  よく見得を張るっていいますよね?

山﨑 そう、六方も同じ、人間が、特別な感情を持った時に表す突拍子もない行動ですね。六方は、現代人にはあまり見かけませんけど、見得を張る方はいますよね。

yui  現代でも見得を張るという言葉は当たり前のように使われていますが、歌舞伎から生まれた言葉なのは知らない方も多いと思います。

山﨑 その見得っていうのは、歌舞伎の中では、感情が高まった時や、大きさを表すのに体を使って、表現されます。歌舞伎の場合は、現代人の見得を張るっていうのとは、ちょっと違っているんですが、YUIさん、分かりますか?

yui  はい、歌舞伎の見得は、動きの一種であると解釈しています。役柄の心情や性格を表すのを見せるためのものだと。

山﨑 そうですね。その動きが、歌舞伎の場合は、なんと、スローモーション(ストップモーション)なんです!

yui  なるほど!確かに動きがゆっくりな印象です

山﨑 YUIさん、何故、ストップモーションになったか御存知でしょうか?江戸時代の芝居小屋って、皆の集いの場、憩いの場所だったんですよ。

yui  朝から夜まで、自由に見て、お弁当やお蕎麦を食べて見物する庶民の楽しみだったんですよね。

山﨑 そう。真剣に芝居を観に来ている人もいれば、お見合いのデートの場所だったり、親類が田舎から芝居見物に出かけてきていたり、小屋は、始終大騒ぎだったんです。

yui  大賑わいの様子は観客席を描いた浮世絵で見たことがあります。

山﨑 芝居小屋の方も、(ひと稼ぎしたいし)、憩いの場所をもっと作りたいでしょう?なので、劇場の周り(現在だと、ロビーの中のお店もそうですね)に、食事やお茶が出来る、「芝居茶屋」を作ったんです。

yui  旧歌舞伎座は名残でカレー屋さんなどがありましたよね?新歌舞伎座タワーも三階に芝居茶屋や各階に売店がありますが。

山﨑 そうなんです。昔は、幕の内弁当や、お蕎麦、明治以降になって、洋風なものが出てきたんでしょうね。だから、公演中でも、お芝居を観たい人は劇場で、ご飯を食べたい人は、芝居茶屋で一杯やっていたというわけなんです。今では考えられないですどね。

yui  新歌舞伎座になる前の旧歌舞伎座では、演目中もお弁当を食べている方がいたような気がしますが、何故だかビルになり、現在の歌舞伎ブームが起きてから、そういった方を見受けられなくなったような気がします。

山﨑 そうですね。旧歌舞伎座は、芝居小屋の雰囲気が残っていましたね。歌舞伎は、庶民のものが発生なんだけど、実際は格式を重んじる風潮になってきています。やはり、商業的な面もありますし、いまの時代、存続させるには、両立していかないといけないと思います。さっきの江戸の芝居小屋の賑わいの話に戻りますが、、観客席で騒がれちゃ、役者としては、これはたまったもんじゃないんです!もちろんご贔屓さんは大事にしなきゃいけないんですが、何とか、芝居に集中してくれる方法を考えなくては、と思うようになったんです。

yui  そこで、ストップモーションが関係してくるのですね?

山﨑 そう、それが、見得なんですよ!
観客の話し声が大きいので、それより大きな声出したり、お能や狂言から取り入れた、ゆっくりとした化粧声のような発声を出す工夫をしてはいたのですが、芝居のあいだ、ずっと声を張り上げ続けることは、大変じゃないですか。そこで逆転の発想を試みたんです!

yui  逆転の発想ですか!

山﨑 芝居のポイントポイントで、例えば、花道の七三辺りで、わざとゆっくりとした動きに変えるんです!しかも、台詞は無しです!

yui  なるほど、急に役者の動きが止まり、台詞が無いと注目しますね。

山﨑 そう、お客さんは、なんだ?妙な形で止まったぞ?って思うでしょう。
そこで、もっと驚かそうとして、、首くるっと回して、附けが「バッタリ」と二つ入る見得を発明したんです。
中つまり、ざわざわ、した、劇場を一瞬にして、静まり返らせる!

yui  その手法であれば、想像するだけで静まり返る様子が目に浮かびます。

山﨑 これが、江戸歌舞伎が生んだ一番の演出「見得」なんですよ!

yui  なるほど!それが歌舞伎の「見得」なのですね!すごくよく分かりました。

山﨑 そうなんです。江戸の歌舞伎で、この見得が生まれて、附けがたくさん取り入れられるうようになりました。
逆転の発想の他の例としては、「だんまり」があります。

yui 「だんまり」という演出も「見得」と同様、よく耳にする歌舞伎演出の1つですね。

山﨑 「だんまり」は、真っ暗な中を、登場人物が数人出て、お芝居の中で一番大切は「物」を探りなから奪いあう演出です。
真っ暗な設定なのですが、照明は明るいんです。

yui  なるほど。賑わう芝居小屋での静寂さで惹きつける逆転の発想なのですね。明るくて、暗さをどのように表すのでしょうか?

山﨑 暗闇なので、音楽も附けも、役者もすべてがゆっくりとスローモーションの振りなんです!実際は明るいのに!なんだか、滑稽ですよね?それが、お客の興味を引き付けるんです。

yui 「だんまり」の中でも、ゆっくりとしたカンカン!という附けの音を聞いた事があるような気がします。

山﨑 はい!「だんまり」の附けで一番重要なのは、登場人物が奪い合っている宝物、つまり、手紙だったり、刀だったり、事件の手がかりになる証拠の品の行方を強調させて、お客さんに、分からせる事です。
ゆっくりというのは、やはり、真っ暗で、何も見えていないという設定だから、なんです。

yui  なるほど。走ったり、見得を切ったり、役者の動きを、表す音としてだけでなく、附けの中でも、そのように意味を表す音、場面を表す音など様々な意味合いがあるのですね

山﨑 はい。そうです。強弱や緩急を付けて、高揚感を出したり、スピード感を出したり、役者の演技だけではく、芝居全体のボリュームを上げ下げしているんです。

yui  附け打ちというのは、芝居音楽というよりは演出としての意味合いがつよいですね。

山﨑 演出というか、江戸の歌舞伎役者の要望でしょうね。初代市川團十郎の功績が大きいとされています。
始めに出てきた、「六方」ありますよね?

yui  はい。「六方」は歌舞伎でもよく目にします。

山﨑 あれこそ、江戸歌舞伎の附けの醍醐味だと思うんです。

yui  そうですね、「六方」はこれぞ歌舞伎!という感じがします。

山﨑  六方は、江戸時代に実在した、六方組という侠客の集団がいて、その人たちの傍若無人な歩き方を真似たとされています。
附けは全体に、その六方組のように、型にはまらず、音楽にリズムでもない、荒々しさを持っていなくてはいけないんです。

yui  六方組という集団は、初めて聞きました。

山﨑 歌舞伎は、時代によって変わっていくものですが、附けも変わってきています。しかし、江戸歌舞伎の荒々しさや豪快さ、荒唐無稽な面白さを無くしてはいけません。附けの役割は大きいんです。なにしろ、音が大きいので、目立ちますもんね(笑)

yui そうですね!とても目立ちます(笑)
歌舞伎の変化に伴い、附けも大きく変わってきたのですね。

山﨑 演出面に左右されますね、特に新作では、現代音楽の中で打つものや、照明の技術、それから、一番は、台詞のスピードが速くなっていますよね。その中で古典の附けの打法が、合わない時があるんですよ。
歌舞伎音楽(三味線・お囃子)の中では、十分に映える打ち方が、映えなくなってくるんです。

yui 台詞のスピードも変化してきているなんて。昔の歌舞伎の面白みを残しつつ、現代の歌舞伎の変化に合わせるところは難しい事なのですね。

山﨑 だからといって、初めから崩すような事はしません。まずはぶつけてみて、それから古典の打法をベースにアレンジしていきます。そう、いくら新作でも、古典歌舞伎の面白みは残さないといけませんから。やりがいはありますよ。稽古を進めていくうえで、いろんな発見もありますし!

yui おぉ!これは山﨑さんからよくお聞きする、ぶつけてみる!という試みですね!

山﨑 そう。まずは足し算!それから引き算!他の社会でも、通用すると思います。

yui その通りですね!私も昔ながらを大事にしたい人間なので。

山﨑 はい。新作に挑戦して、一番に感じた事は、どんな現代音楽でも、附けの音は、交ざらないって事なんです。

yui 交ざらない分、プレッシャーも感じられるのでは無いですか?特に新作の場合は。

山﨑 プレッシャーというのは、無いんですよ。ここ一番に入れるべきところさえ自分で分かっていれば。だから、台本を読むことはとても大事です。

yui そうなんですね!台本を読んで、もう一発でここで音を入れる!というのはご自身で掴んでいるのですか?

山﨑 分かります。台本の構成って、ある種の流れがあって、一幕で事件勃発、二幕の初めは、余談は話を入れ込んで、ちょっとお客様のこころを緩めて、三幕目から、いよいよ事件解決へ向けてとなるわけです。あと、ト書きっていうのがあってそこに、役者の動きを書いてある時があるんです。そこをねらいます。でも、実際は、稽古に入ってからが大きいです。音楽の出来具合や、役者さんの役作りを見ながら、入れるかどうかを決めていきます。

yui 台本だけでわかってしまうのですね!すごいです。
でもそのようにすぐに掴めることができるのも山﨑さんの出演の多さと、経験からですよね?他の附けの若手の方などは、中々それを掴んで、ぶつけることは難しいのでは無いでしょうか?

山﨑 そうですね、経験は必要です。その場で対応できる力を持つのは、どれだけ古典が身についているかだと思います。でも、それを発揮できる現場に付かないと意味がないわけで、いまは、僕は初演から担当している、渋谷コクーン歌舞伎では、稽古場を後輩と二人で担当しています。そこで、演出家や音楽家の要望に対応できる力を養います。二人でアイデアを出し合って創っていくのも、今までにはない新しい形です。一公演一人体制がほとんどでしたから。

yui 古典の知識がやはり重要なんですね!
山﨑さんは、古典の知識はどのようにここまで得られたのですか?

山﨑 そうなんです。古典の知識は膨大で、限りがないので、どれから学んでいくか悩みますが、一番は、担当する狂言を題材に、音楽やら、立てやらを徹底的に調べます。とはいっても、まだまだですが。。やはり、稽古場や25日間の公演中に、教えていただく事が多いですね。新作の舞台でもやりながらいろんな意見を取り入れて、そこからどんどん派生して、新しい打ち方が生まれます。

yui ここまでのお話の中でも、附け打ち師として得ただけではない、膨大な知識をお持ちで驚きました!
その勉強熱心さと、幅広い知識故、様々な演目でご活躍されているのですね。

山﨑 好きですからね、歌舞伎が(笑) 歌舞伎愛がすごいね、と言われます。

yui コクーン歌舞伎のお話が出ましたが、新作歌舞伎も多い中、附けの音響へのこだわりは、演出家や役者によってやはり様々ですか?

山﨑 クオリティの高さっていう面では、録音の方が上ですよね。
公演中、何度やっても、ミスがないでしょう。役者がそれに合わせばいい。
それを生音に、こだわるのは、演者と演奏者の気と気のぶつかり合いが、あるからなんです。歌舞伎独特の本花道のおかげで、お客様はその気を感じて、しかも360℃、生の音に囲まれている贅沢な空間なんですよ。

yui その通りですね〜。1つ1つの音に囲まれるのは幸せであり、観客として贅沢な時間です。

山﨑 音響さんの技術は、素晴らしいものがあります。音響さんにも、音の出具合など、客席から聞いていただいて、アドバイスをもらいます。

yui 観客のために、細部まで徹底されて作られているのですね。

山﨑 お客さんの為でもあり、出演者の為でもあります。演奏者にとっても、自分の演奏している音が聞こえる事、つまり、音の返りは、とても大事ですからね。附け打ちにとっても、音の反響は大切です。
YUIさん、附け場に座っていると、役者や、演奏家の息遣いが聞こえるんですよ。

yui 附け打ちの方のみ知る事ができる息遣い‥きっと素晴らしいのでしょうね。音響さんとのチームプレイも素敵です。

山﨑 音響さんに助けられています。

yui 昨年の阿弖流為も拝見させて頂きましたが、生演奏の中で繰り広げられる演出に鳥肌が立ちっぱなしでした。
そのように生演奏の重要性が求められ、様々な場でお呼びがかかり、しかし人手不足でもある、附け打ちという職業。
今後、附け打ちの職業はどのような事が求められ、どのように発展していくと思いますか?

山﨑 はい。『阿弖流為』では、いい経験をさせてもらいました。古典歌舞伎ではありえないほど、附けを多用していただきました。演出のいのうえひでのりさんは、35周年を迎えた劇団☆新感線で初めて本物の附けを使う事を決めていただいて、本当に感謝しています。ワクワク感で飛び込んだ稽古場は、とっても大変でした。まず、台詞の合間に附けをいれる演出に戸惑いました。附けは、ここぞという時の「おいしいとこ」取りの感覚があるので、いのうえ歌舞伎のスピード感のある台詞に附けを入れていくことで、見得が引き立たなくなるのでは?と思ったからです。最初はどうも入れづらかったのですが、稽古が進むにつれて、一枚の板からいろんな音を出す方法を思いついたんです。場所を変えてみたり、スライドさせながら打ち込んでいったり、もちろん、強弱や緩急を付けて、いろいろ挑戦しました。

心情に飛び込んで、台詞の受け答えをしているような感覚で附けを打っていました。ありがたかったのは、音楽が生演奏だった事です。岡崎司さんの音楽も、素晴らしかったです。特に、岡部亘さんのドラム・パーカッションの音をよく聞きながら打っていました。ドラムのリズムを取り入れたり、岡部さんが僕の附けの打法を真似してくれたり、毎日楽しかったです。

歌舞伎の中で、附けが、生音であることは、これからもゆるぎないものであって欲しいです。舞台に出て音を附ける姿も歌舞伎ならではですし、とにかく、音の臨場感が、寝た子をお越し、お客様を前ノメリにさせているんです!

後継者不足は続いています。これからの附け打ちとしての課題はまず、後継者を育てること。古典の技術の復活作業もおこなっています。古き良き技術は、時代が巡り巡ってあたらな新作に使えるかもしれませんし。平成になって僕たちの手で復活させた附け打ちという専門職を途絶えさせてはいけません。                

その為に、専門技術者の為のワークショップも開催していこうと思っています。松竹さんの大歌舞伎だけではなく、全国各地の地歌舞伎・こども歌舞伎・人形浄瑠璃などの後継者の方から、附けの技術を教えて欲しいとメッセージをいただいています。ジャンルを問わず、習いたい方に、垣根を超えて教えていく事で、伝統芸能のつながりが出来てくるのではないかと考えます。

yui ありがとうございます。『阿弖流為』の楽しさと山﨑さんにとって、この舞台で新たな再発見があったことを、一個人として知る事が出来、とても嬉しいです。後継者不足はとても心配な事ですし、どんどん良さを知り、やってみたい!という若い方々が増えていってほしいと切に願っています。
最後に、山﨑さんがこれからCOLORS*の読者にぜひ見て欲しい、附けが際立つ演目や、今年のスケジュールでオススメの舞台などがありましたら、教えていただきたいです。

山﨑 後継者は、明日にでも欲しいくらいです。
COLORS* WEBマガジンをご覧に皆様、附け打ちという仕事、歌舞伎に興味のある方は連絡くださいませ!

私がお薦めする附けの一番の魅せ場は、歌舞伎十八番の内「勧進帳」という演目です。この勧進帳は、兄・源頼朝に追われた、義経一行を待ち構える、安宅関での一場面を描いた作品ですが、幕切れに、関守の富樫左衛門の情けを受け、関所を通過することが出来た義経一行を、見送る弁慶の演技に附けが入るんです。舞台は、花道に弁慶一人と上手に附け打ちのみ。一行の無事を見届けた弁慶が、引っ込む時に、「打ち上げの見得」という、スローモーションの演技に附けが入るんです、役者の息使いと、附けの音のみ。この臨場感を感じてみてください。他にも、お薦めはたくさんありますが、勧進帳だけは附け打ちにとっては特別なものです。

今年も新作公演の年になりそうです。4月は明後日初日を迎える、新橋演舞場でも滝沢歌舞伎2016。11年連続の公演中で、今回初めて、私達附け打ちが参加します。それから、6月には、渋谷シアターコクーンにて、2年ぶりとなる、コクーン歌舞伎が開催されます。今回は「四谷怪談」演出の串田和美さんの元、古典作品をゼロから創り出していきます。秋にもフラメンコと歌舞伎の融合作品「GOEMON」10月新橋演舞場も控えていて、4回目の再演東京では初上演となり、これもまた楽しみです!

これからも、附け打ちという観点から、江戸の歌舞伎が目指していた、生音の溢れる劇空間を探し求めていきたいと思っています。

最後に、もう一度、COLORS* WEBマガジンをご覧の方々、附け打ちという仕事、歌舞伎に興味のある方は連絡くださいませ!

yui ありがとうございます!今回の山﨑さんとのライヴ対談で、附け打ちという職業について多くの方に興味を抱いて頂き、後継者の方が増えるお手伝いが出来れば嬉しい限りです!
ぜひ、COLORS*読者の皆さん、ご連絡をお願いします!今年の新作もとても楽しみです。私もコクーン歌舞伎「四谷怪談」は必ずお伺いしたいと思っています。

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いかがでしたか?次回もcolors*では、附け打ち師 山﨑徹さんに密着し、ワークショップに潜入レポ致します。お楽しみに!!

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Yui

Yui

図書館司書とシナリオライターの二つの顔を持つYUIです。 伝統芸能に精通しており、歌舞伎、邦楽、落語、着物の魅力を広めたいです。